鎖骨の花びら

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***  保育園からの幼なじみである相沢陸(あいざわりく)を最後に見たのは、今年の三月。卒業生を見送るため、当時高校二年生だった裕輝が卒業式に参加した、よく晴れた日のことだ。  その日、裕輝は在校生代表の言葉を任されてしまい、緊張で腹を壊し、人通りの少ない旧校舎の一階にあるトイレに朝から籠もっていた。  本来なら、在校生の言葉は生徒会長の役目だ。裕輝は生徒会長でもなんでもない。ただのしがない生徒の一人である。  けれど、裕輝達の学年の生徒会長がSNS上で生徒会の一人を実名で袋叩きにしたとかなんとかで、事実上の活動停止を言い渡されてしまったそうだ。  常に学年トップの成績を維持し、教師からの評価もまずまずな裕輝に大役がまわってきたのである。  たいして頑張ってもいないのに、裕輝としては趣味もやりたいことも無かったため、ヒマなときにひたすら勉強していただけだった。その弊害が、まさかこんなところにやってくるなんて思ってもみなかった。  いよいよ式が始まるという時間になった頃。教師に「当日は前髪を上げてきてください」と指摘された目まで伸びた人見知り感たっぷりの前髪を、手洗い場の鏡を見ながら申し訳程度に横へと流し、急いでトイレから出た。  旧校舎を出て、卒業式が行われる体育館を目指して中庭を足早に走っていると、どこからかクスクスと笑いあう男女の声が聞こえてきた。
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