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エピローグ
翌年。1月2日。
「帰りました」
数日ぶりに聞いた小田桐の声に、中堂は立ち上がって玄関まで出迎えた。実家に帰っていた小田桐が、こちらに戻って来たのだ。どうやら病院薬剤師と言うのは年末年始も出勤するらしく、小田桐の出勤は明日3日なのだそうである。
「お帰りなさい。ご実家はどうでした?」
「いつも通りでしたよ」
「私の事はなんて?」
「紆余曲折を経て中堂さんと付き合うことになりました、という話はしました」
「驚かれませんでしたか」
「紆余曲折の中身を聞かれましたがぼかしました」
「そりゃそうです」
中堂の暴力から始まったのだから。今でも、小田桐が絆されたのではないかと中堂は思っているが……小田桐がそう言う意味で目が覚めてしまったらそれは自分の落ち度として受け入れるつもりでいる。
「写真を見せたらすごい美人だからって納得されました」
「なんですか、それは」
笑ってしまう。小田桐の両親らしいと言えばそうだが。
「中堂さんは? ご両親に俺のことは」
「君のことを連絡すると、神谷さんのことから話さないといけなくなるので」
「ああ……それはそうですね」
小田桐が手を洗ってうがいを済ませる。中堂は洗面所から出てきた小田桐を抱きしめた。
「寂しかったですよ」
「メールしたじゃないですか」
「小田桐くんがいないと寒いんですよ」
「仕事の日はいないじゃないですか」
「うるさい文句言うな。君は私に好かれている自覚を持って下さい」
「持ってます」
ほっぺたに口づける。
あの12月24日を終えてから、2人の間にあった「休みの前日」の決まり事はなくなった。したいときにしたい方が誘う。それはもちろん相手の負担にならないように。
2人の関係は「恋人」になった。
本当にこれで良いのかという迷いがないわけではない。けれど、中堂は小田桐が許してくれる間は、小田桐の持っている欲しいものに対して「欲しい」と口にしようと決めた。それをしなくて彼を振り回していたから。
多分、この関係にも終わりは来るのだと思う(終わりから考え始めるのが自分の悪い癖だ)。けれど、何にでも終わりはある。
終わった時に、やることはやったと納得できるように。
小田桐にも納得してもらえるように。
そうやって過ごしていくことが誠実さだと思うことにした。
「小田桐くん」
中堂は台所に入ってお茶を汲む小田桐に声を投げかけた。
「好きですよ」
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