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家もやだ
「ただいま」今時珍しい引き戸を開く。
「おかえり、お姉ちゃん♪」妹の杏(あんず)が愛らしい顔で出迎えてくる。
「今日はどうだった?」などの声が聞こえてくるが、それをあからさまに無視して自室に向かう。「お姉ちゃん…」私はこの子が嫌いだ。なんの努力もしてないくせにいつも笑っている、私の理想をたやすく手に入れられる、そんな彼女を妬んでいた。
母を呼ぶ声が聞こえた。私は私室は向かう足を早めた。
ベッドと勉強机、大きさに不釣り合いな長さのカーテンがかけられた窓以外何もない、何も置かないようにしている約六畳の空間が私の居場所だ。しかし、それを土足で踏み込み荒らしていく悪魔が存在するんだ。「桜!」ドン!と扉を叩く音とともに、私を責める声が聞こえた。鍵のない戸はいともたやすく開かれた。「あんたまた杏に意地悪したんでしょ?成績が上がらないからって妹に当たるなんて、、これで何度目よ!どこで育て方間違えたのよ!」元々醜い顔をさらに歪ませて、怒鳴る悪魔。
何にも分かってないんだ、このババアは。私が杏に当たるのも、成績が悩みの一つになるのも、全部全部自分のせいだってことを。
「あんたなんかに言われたくない、杏が言うこと聞かないからって私に当たるのはどこの誰?杏にはなんも言わないくせに、私にだけ成績、成績騒ぐのはどこのだ「私のせいだって言うの!?実力不足を棚に上げて、ほんとに、やな子!」バタンと開ける時よりも乱暴な音が響き渡った。「っ…」今は閉まり切った扉を涙の滲んだ瞳で目一杯睨みつける。手のひらには爪が食い込んで、唇は血が出るほど噛みしめたが痛みは感じない、あるのは実の母親への明確な殺意だけだった。
8歳離れて生まれてきた妹、杏が来るまでは、普通の厳しいお母さんだった。小学校の頃から成績、芸術に感してうるさく言われた方だったが、母が喜んでくれるから喜びに感じた。しかし杏が、心臓に穴を開けて生まれてきた時から、私のささやかな幸せは崩壊する。
生まれて直後、家に帰る間もなく手術が行われたらしい。お母さんは泣いていて、食事も満足に作ってくれなかった。しかし、その老け様から母が弱っていることを、幼いながらに感じ取った。
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