「私」

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自室のベッドにリュックを下ろした私はチャックを開けて、暖まりきった空気の中から迷わず聖典を取り出した。 なんとなく折り目をつけられなくて、ページの開き方も硬いままだ。外側の画用紙と製本テープは学校で作らされる冊子と同じ作りだし、中身も安くて薄いコピー用紙と背伸びしたような明朝体の寄せ集めであるが、みすぼらしいとは思わない。 隠さなければいけない反面、彼の「見せびらかしたい」という気持ちが分かるくらいには誇りに思えた。 私は一つ一つ言葉を指で読むように撫でていった。頁の間に挟まっていた残暑が伝わり、なんとなく言霊の温度として感じてしまう。これは私の言葉、これはSの言葉、これも…。 …なんとなく、私の方が意識してお堅い言葉を使っているかもしれないと気づく。彼の言葉も格調高いけれど、どこか柔らかで、むしろいつもの私のようで。
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