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通ったことのある道を外れて少しすると、ある程度開けた場所に出た。多分ここなら、誰も知らない。
「ここにしようか」
私が言うと、Sはすぐにリュックをドサリと下ろした。中からは短めに切られた板が何枚も出てくる。
「言ってくれれば持ったのに」
「いや、女性に持たせる訳にはいきませんから…設計図は?」
「あるよ、やりますか」
Sが敷いたレジャーシートの上で、私はビニール袋から金槌やボンドを取り出し、木材を設計図の前に並べた。一緒に入れていた冷えたお茶のせいで、ところどころ湿っているけど支障はない。
「水分補給して」
私はお茶を渡した。
「あるから大丈夫だよ」
「二本も飲まないから」
「…ありがとう、優しいですね」
Sはいつも通り私にそう言って、お茶を受け取った。彼だけは、私が何回優しくしてもその度に感謝して褒めてくれた。それだけの事が、私には嬉しかった。
「釘打ちましょうか」
「打てるの?」
「中学の時打ったでしょう、貴女の指は綺麗なんだから」
「君の指も綺麗だけどね…じゃあ片側よろしく」
やすった木材をボンドでくっつけながら、釘を打っていく。そんなに凝った祠にはしていないが、それでも慣れていないことには時間がかかる。ゆらゆらしていた木漏れ日の位置が、気付けばかなり動いていた。
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