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「なるほど、そんな事情があったのですね。加藤さん、突然申し訳ありませんでした」
「いえいえ、お気になさらず」
「加藤さんはお気になさらずと言っています」
加藤の言葉は美雪に聞こえないため、田車が間に入って話していた。通訳者はこんな気持なのかなーと何となく考える。
「話によると父により封印をされてしまったようで、なんとお詫びすればいいのやら」
「いやー、紛らわしかった俺も悪いんで気にしないで下さい、田車さんが来る前の住人つい金縛っちゃって」
「それも気にしないで下さいって言ってますよ。ところで疑問なんですが封印と成仏するって何が違うんですか?」
田車は疑問に思っていたことを聞いてみると、美雪はきちんと答えてくれた。
「封印は人間で例えるとコールドスリープですね」
「こ、コールドスリープですか?」
およそ巫女の口には合わない単語が出てきて田車は戸惑う。
「そうです、封印してされている間の意識は無く、そのまま消滅するか、時間が経ってまた霊として蘇るかします」
霊なのに蘇るとは? と思ったが、あえて田車は何も言わずにいた。
「そうそう、確かにそんな感じだった」
実際に受けた本人がそういうのだから、そういうものなのだろうと田車は納得する。
「成仏…… というか神道では死者は黄泉の国へと行く事になっています」
「それは聞いたことがありますね」
田車が言うと、深雪は話し続けた。
「ですが稀に加藤さんのようにこの世をさまよい続ける死者もいるのです。そういった者たちに共通するのは何らかの強い念、特に負の感情。未練や怨念が強い場合が多いのです」
「なるほど、だから心霊スポットとかで祟りだの怖い霊を見ただのがあるんですね」
「えぇ」と言って深雪は説明を入れる。
「祟りという字は『出』て『示』すと書きます、幽霊も出て何かを示したいのだと思いますが、大半の場合それは生きた人間にとって良くないことに繋がります」
「そうだったのか……」
加藤は思い当たるフシがあった。自分はただ話を聞いて貰いたいのに相手を金縛りに会わせてしまう事だ。
「ともかく、人にとっても幽霊にとってもあるべき世界に居ない事はお互いにとって不幸です。加藤さんが危害を加える霊で無いとしても、早急にあの世へと行くべきなのですが」
加藤は目をつむり腕を組んで何かを考えて、よしっと言って目を開いた。
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