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16時半頃、田車は家へと帰ってきた。
「おっ、おかえり田車さん」
出迎えてくれるのは金髪ツーサイドアップの美少女…… ではなく、中年のおっさんだ。
「お待たせしました、行きましょうか」
「おぅ、待ってたぜ」
田車は荷物を玄関に置くと加藤と共に外に出た。冬に比べて日は長くなってきたが、空は夕暮れの兆しを見せている。
神社に着く頃にはすっかり太陽は西へ動き赤くなっていた。美雪がいるかどうか心配だったが、暗くなる前に神社の戸締まりをしているのだろうか、本殿の前に巫女が立っていた。
「こんばんは、美雪さん」
田車が声を掛けると美雪は振り返って。
「こんば…… ぶふっ、す、すみませ」
ぼんやりとした加藤の姿を見ると吹き出した。
「ねぇ、酷くない? あれ、酷くない?」
加藤は指差して言った、はははと田車は苦笑いをしていると落ち着いた美雪が話し始める。
「し、失礼しました。こんばんは、田車さん、加藤さん」
「はい、相談したいことがありまして…… 遅い時間になってしまったのですが、大丈夫ですか?」
「えぇ、何かお困りごとですか?」
美雪は嫌な顔ひとつせずに聞いてくれた。
「その、実は田車さんの写真が、昨日曲がりなりにも数万人ぐらいに見られたのですが」
「ぶふっ、は、はい、わ、私も、み、見ていました」
思い出し笑いを堪えながら美雪は必死に言う。
「やっぱあれ酷いって!」
加藤はすねていたが、構わずに田車は質問を続ける。
「それで色々話したんですが、加藤さんは承認欲求を満たしたいだけで、別に怖がられる必要は無いんじゃないのかなって話になりまして」
「なるほど」
今度は笑いを抑えて短く美雪は返事をした。
「それで、守護霊とかいい感じの行いをして感謝されるのもありかなって思ったんですけど」
そこまで話を聞くと美雪は少し難しい顔をする。
「うーん…… 守護霊というのは身内の人間を見守り、心が満たされて未練をなくし、あの世へ行くものですからね」
「お、それじゃ俺が田車さんの守護霊になるってのはどうだ?」
「加藤さんは俺の守護霊になるかって言ってるんですけど」
加藤の言葉を美雪に伝えると、また悩ましい顔をした。
「その、守護霊にも相性ってのがあって、無意識の内に田車さんを金縛りに遭わせてしまう加藤さんには…… 残念ながら厳しいかと」
「そうだよなぁ」
加藤はガックリと肩を落とす。そんな時ふと美雪がポツリと話し始める。
「でも…… 私、不謹慎かもしれませんが、加藤さんに感謝しているんです」
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