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田車は明け方にふと目が覚めた。
もちろん体は動かない。明るい時間にも普通に金縛りになるんだなと呑気に考えていた。まぁ加藤は日中に外を歩き回れる幽霊だからそんなもんなんだろうなと。
「やっべ、今日は金縛らないで行けると思ったのに、またやっちまったか!」
どうやら加藤は今日こそは金縛りをせずにいられると思っていたらしい。田車は唯一動く目線だけで加藤を見た。
「あー、本当申し訳ねぇな田車さん」
「気にしなくて良いですよ」と一言伝えたいのに、口が動かず田車はもどかしい思いをしている。
「俺さ、やっぱ色々考えたんだけど、やっぱ毎日こうして金縛っちゃうのって田車さんの負担にもなるし良くないと思うんだ」
幽霊にしては陽気な加藤が弱気になっていた。
「田車さんと、美雪さんが俺を成仏させようとして色々としてくれたの、本当に嬉しかったんだ」
田車は一方的に話を聞かされ続ける、力を入れようとしてもどうしても体が動かない。
「ほら、幽霊って基本的に孤独だろ? それに俺は身よりも無いし、だから余計に俺のことが見える田車さんの優しさに依存しちまうと思うんだよね」
「田車さんは良い人だ、だからこそ迷惑を掛けちゃいけないと思う、だから、俺は……」
その瞬間、田車の口がかすかに動く。
「に……」
加藤は目を見開いて驚いていた、田車は思い切り体に力を入れて絞り出すように一言言った。
「な…… に…… メンヘラ起こしてんすか」
そして田車はフッと体が軽くなり、ぐっと上半身を起こして言い放つ。
「台所の…… おっさん」
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