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朝になり、窓から日差しが差し込んで田車は飛び起きる。体は自由に動くようだが、汗をびっしょりとかいて気持ちが悪い。
昨日見たあの男は何だったのだろうか、夢か幻か、それとも……。
いや、幽霊など居るわけがない。
この高度情報化社会で幽霊に怯えるなど科学的ではないと自分に言い聞かせ田車はふと居間の方を見た、いた。
「あー、わりぃ。金縛ばっちゃったみたいで」
30代半ばぐらいの半透明の男はバツが悪そうに頭をかきながらそう言う。
田車はまだ夢でも見ているのだろうと頑なにその存在を認めず、頬を引っ叩いてみたがしっかりと痛い。
「ちょっとさ、悪いんだけど頼みがあってな。ちょっーと協力して欲しいんだけども」
男は田車に頼み事をしてきた。
頭の整理が追いつかないが、田車は台所へと向かい、料理用の塩を手のひらいっぱいに握りしめて。
「悪霊退散!!!」
男へとばらまいたが、塩は男を浄化するでもダメージを与えるでもなく、ただ床に散らばっただけだった。
「あー、そのだな、俺って塩効かないのよ」
「なむあみだぶつ!!なむあみだぶつ!!」
「悪いけど念仏の類も効かねえんだ」
田車はパソコンデスクの前まで無言で歩いて椅子に座ってふぅーっと溜息を付く。
終わった、新生活終わったと。
幻覚ならば自分が終わっているし、仮に、認めたくないが、仮に幽霊ならばここは事故物件だ。
「いやマジ、金縛ちゃって怖がらせたのはマジ悪いと思ってるよ、マジでマジ、ほんとーゴメン!」
そう言って男は両手を合わせて頭を下げてきた。田車は半分やけくそに男との意思疎通をはかってみる。
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