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「えーっと、何か消えないな……」
加藤は気まずそうに言った。うーんと田車もどうしたものかと考える。
「でも、でも、何というかあと一歩的なところまで来ている感じはするんだ」
「そうですかー……」
「そう、シチュエーション!! なんかこう成仏するシチュエーションがあれば逝けそう!!」
「シチュエーションと言われても……」
そこまで言いかけて2人はあっと気付いた。
「神社だ!!」
急いで田車は着替えて家を出る。
少し肌寒いが明け方の街は綺麗だった。そういえばこの街に越してきて、明け方に外を出歩いたこと無かったな、なんて思った。
「いやー、これで俺も成仏かー」
「そうですね、やっとですね」
街は誰も歩いておらず、気兼ねなく田車は加藤と話をしていた。
「何だか田車さんとは長い付き合いみたいな気がするけど、たった3日だけなんだよな」
「色んな事が起こりすぎて俺にはあっという間の3日間でしたよ」
「俺が居なくなって寂しくなって田車さんが泣かないか心配だ」
「その心配だけは必要ないですよ」
2人は笑い合って冗談を言いながら神社を目指す。だが加藤はふと立ち止まって後ろを振り返った。
「どうしたんですか?」
「いや、これでこの街の風景…… っていうか、この世の風景とはおさらばだって思うと少し寂しい感じがしてな」
「加藤さんの方が寂しくなってるじゃないですか」
「仕方ないだろ、俺は何十年もこの街に居たんだから。まぁ封印されてた時間のが長いけどさ」
加藤は前を向いて田車に言う。
「よし、行こう田車さん」
「はい」
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