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田車と加藤は神社の前までやってきた。
1礼して鳥居をくぐるとご苦労なことに朝早くから境内の掃除をしている巫女の姿があった。田車は手水舎で手と口を清めて美雪へ近づく。
「美雪さーん、おはようございます」
田車が声を掛けると美雪は振り返って、薄目をして加藤のいる場所を凝視していた。
「おはようございます、何か加藤さん薄くなってません?」
「えぇ、実は加藤さん何だか成仏できそうなんです!!」
「本当ですか!?」
美雪は驚いて言った、そして慌てだす。
「ど、どうしましょう。まだこの神社は正式な神主が決まっておらず、神葬祭ができません!!」
「美雪さん、そんな立派なものじゃなくても良いんだ。俺は田車さんと美雪さんのおかげであの世へ旅立てそうなんだ。だからその、この場所でそれを迎えさせてくれるだけでいいんだ」
田車は加藤の言葉を一字一句全て美雪に伝えた。
「そうですか……」
すると突然、美雪は頭を下げる。
「加藤さんごめんなさい!! 私は、こんな巫女の格好をしていますが、実は神道のこともまだ勉強中で!!」
「大丈夫だ、俺にとって美雪さんは立派な巫女さんだよ」
加藤の言葉を伝えると美雪は思わず涙ぐんだ。
「ありがとうございます」
そう言って美雪は両手を合わせて目をつむった。
「せめて、せめて気持ちだけでも真剣にお祈りします。どうか、加藤さんが迷わずに黄泉の国へと行けるように」
田車も美雪のそれを真似て両手を合わせて真剣に祈る。
「美雪さん、田車さん……」
加藤は両目を右手で抑えて、ジッとしていたが、やがて1つため息をついて言った。
「ありがとう」
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