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解約立ち合い
「フローリングの床破損のリペア代金と壁紙の故意過失、経年劣化部分を省いた部分がご請求になります」俺は入居者の費用負担を説明する。
「このフローリングの傷は住み始めた時からあったと思います。それに壁紙のこれくらいの傷は補修しなくても次使えるでしょう」今日退去予定の延川達也が不満を露にして食い下がってくる。
「あなたが住み始める前の写真がございます。こちらをご確認ください」俺は持参してきた資料を示す。そこにはこの部屋のフローリングを撮影した写真が差し込まれている。
「うっ……」彼は言葉を失っている。
「壁紙クロスに関しましては、国交省の指導指針通り六年で償却する計算を適用させて頂きますのでご安心ください」どんなに壁紙を傷つけようが七年でその価値は消滅すると云う考え方である。
「わかりました……」ひとまず納得したようである。
「それではご請求金額を出しまして、ご連絡のうえ敷金より差し引いて貸主様より延川様ご指定の口座にお振込していただきます。約二週間での送金を予定しております。では、こちらに確認のサインをお願いいたします」彼は渋々サインをする。こんな感じで素直にサインをする退去者は正直言って希である。たいていの人はグズグズ言って有耶無耶にしようとする。
毎月月末になると月末退去の立ち会いで賃貸管理業者はてんてこ舞いになる。本日も四件の解約立会で一日の仕事はこれで終わってしまう。
次のワンルームの立ち合いで本日の業務は終了する。
「ポストの中も確認して頂けましたか?」退去後にポストに郵便物が投函されないようにテープで塞ぐ。
「ええ、大丈夫です」彼は一応ポストの中を確認してから返答をした。
「それではありがとうございました。またご縁がございましたら宜しくお願いいたします」深々とお辞儀をしながら見送る。故意過失の部分を請求された退去者はたいてい後味が悪いような顔をする。勝負に負けた!みたいな感じかもしれない。
「さて、次は……」退去者を見送った後、社用車に乗り込み資料を確認する。
「えーと次の解約はワンルームの分譲貸マンション。居住年数は三年程度……と、家賃は月末締めだな」内容を事前に把握しておく。
「よし行くか!次は、メゾン・ド・リープの203号室だな」次の立ち会い予定のマンション名を確認し、エンジンをかけて駐車場から車を発信させた。
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