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うっかり『行く』と返事をしそうになって、唇を噛み締めた。
無理 無理、きっと私は また大集団から弾かれる。
布施医院の役に立つような勉強も出来ないまま、もちろん 同世代と楽しく交わることもなく、何をしに月見山病院に行ったのやらーーという展開は見えている。
それなら、お休みの間 ひっそりと医療事務の通信教育を受けるとか、僅かでもスキルアップの方法はある筈だ。
「渉先生、私 やっぱり」
行きません、と言いかけた時 先生の携帯から着信音が響いた。
「噂をすれば理事長からだ。ごめん」
先生は立ち上がり、話しながら待合室の端っこに移動する。
こんな小さな病院、端っこに行ったって 話しは丸聞こえだ。
「はい、ちょうど今。え?ちゃんと伝えてますよ…いや、そんな いきなりは」
先生のリアクションがどんどん落ち着かない。
…嫌な予感がしてきた。
視線を逸らし、出しっ放しの掃除機をそっと持ち上げたところで 先生がツカツカとこちらに戻ってきた。
「妃芽ちゃん、理事長が直に話したいと言われているので お願い」
「ええっ?お、お願いって」
たじろぐ私に有無を言わさず、掃除機と携帯電話を交換させられた。
「あわっ、先生っ」
『妃芽ちゃん?望月 妃芽ちゃんかね?!』
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