謎のモテ期は突然に

10/31
前へ
/308ページ
次へ
正式に勤務が決まってから、渉先生に伴われて挨拶には来たけれど、理事長は急用で不在だった。 ドクターもナースも事務方も 皆 忙しそうで話しかける雰囲気でもなく、結局 誰ともろくに挨拶もしないまま帰ってしまったのだ。 渉先生の「仕事が始まってからでいいよ。その方が皆も妃芽ちゃんを覚え易いだろうし」という言葉に甘え…いや、あの日は正直 早く立ち去りたかった。 こんな忙しい場所で働くのかと思うと、すっかり怖気付いてしまった。 …まさにそれが、目の前で繰り広げられている。 窮屈で慣れないベストとタイトスカートの制服に、身体を締め付けられているような錯覚になった。 どうしたらいいんだろ… 「ほら、行くよ」 不覚にも泣きそうになってしまった時、私の前に背の高い女の人が立ちはだかった。 「やる事は山ほどあるんだから。ビビってる暇ないよ」 「あ、あの」 「宝井。さっき課長が言ったでしょ、それ私」 まるで大輪の向日葵が咲いたような、綺麗な人だ。
/308ページ

最初のコメントを投稿しよう!

192人が本棚に入れています
本棚に追加