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正式に勤務が決まってから、渉先生に伴われて挨拶には来たけれど、理事長は急用で不在だった。
ドクターもナースも事務方も 皆 忙しそうで話しかける雰囲気でもなく、結局 誰ともろくに挨拶もしないまま帰ってしまったのだ。
渉先生の「仕事が始まってからでいいよ。その方が皆も妃芽ちゃんを覚え易いだろうし」という言葉に甘え…いや、あの日は正直 早く立ち去りたかった。
こんな忙しい場所で働くのかと思うと、すっかり怖気付いてしまった。
…まさにそれが、目の前で繰り広げられている。
窮屈で慣れないベストとタイトスカートの制服に、身体を締め付けられているような錯覚になった。
どうしたらいいんだろ…
「ほら、行くよ」
不覚にも泣きそうになってしまった時、私の前に背の高い女の人が立ちはだかった。
「やる事は山ほどあるんだから。ビビってる暇ないよ」
「あ、あの」
「宝井。さっき課長が言ったでしょ、それ私」
まるで大輪の向日葵が咲いたような、綺麗な人だ。
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