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「そう、定義は不可能だ。だから、仮に君が正常だとしても・・・」
佐渡彩子先生は、いつの間にか右手に乗馬で使う革の鞭を持っていた。書き物机に座り、脚を組む。そして、鞭で僕のあごを上げ、顔を近づけた。
「・・・診断する側が異常なら、正常な君は異常と診断される。君は、狂人によって狂気と決めつけられた哀れな正常者かもしれない」
「じゃあ、先生は?昼と夜でまるで別人だ。それは異常では?」
「私はただ、昼夜でジキルとハイドを楽しんでいるのだ」
「それは狂っているのではないですか」
先生は鞭を僕の首の後ろに回し、さらに顔を触れるくらいに近づけた。
「そう?かもしれない。だが、誰がそれを診断する?狂っていない君を誤診し、隔離した医師たちが?異常者の王国では、狂人ははただのモブにすぎない」
先生は、僕の頬に唇を触れた。
「ラポールだよ・・・」
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