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 父がすぐに連れ出してくれると思っていた。だが、父は現れず、僕は数日個室で経過観察されたのち、開放病棟に移された。  教授の息子としての大学生活、ピアノを弾かされる日々、確かに僕はストレスに押し潰されそうだった。勉強やピアノから解放された日々は、意外にも気持ちを穏やかにした。  どうせ、誤診だとわかれば退院できる。その時は訴訟をチラつかせれば、単位もどうにかなるだろう。少しゆっくりしてもいいかもしれない。  読書は自由、自宅から本を持ってきてもらった。父も母も面会には来なかったが、顔を合わせるのはこっちだっていやだった。  そして、気分が落ち着いてくると、ピアノが弾きたくなってきた。食堂にはピアノがあり、昼食後弾いてもよいことになった。僕が弾く完璧なショパンに、医師や看護師はさぞ驚いただろう。そこらへんの音大生よりは、ずっと腕は確かなのだから。
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