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その夜、病室でカフカを読んでいた。畳敷き、小さな書き物机、ドアには格子がはめてある。まるで刑務所のようだ。
そのドアをノックする音がした。男性患者には、必ず男性看護師が対応するのだが、声は女性だった。
「佐渡です。入ってもいいかしら?」
その声は、ハリのある伸びやかなアルトで、昼間のおどおどしたかすれた声とは、違う印象だった。
「どうぞ」
こんな時間に診察?だが、断る理由はなかった。
入ってきたのは、紛れもなくあの佐渡先生なのだが、まるで別人だった。
下ろした髪はふんわりとカールし、グロスで彩られた唇の横にはエクボが並ぶ。メガネをはずすと、つるを唇にくわえる。昼と同じメガネとは思えない、まるで女優の小道具だ。
マスカラでクルリと上を向いたまつ毛、僕をまっすぐに見つめる大きな瞳。そして、昼と同じ白衣なのだが、ボタンをはずし、はだけている。ブラウスのボタンも外され、意外なことにガリガリだと思っていた胸の谷間が強調されている。
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