3

2/4
前へ
/20ページ
次へ
 その夜、病室でカフカを読んでいた。畳敷き、小さな書き物机、ドアには格子がはめてある。まるで刑務所のようだ。  そのドアをノックする音がした。男性患者には、必ず男性看護師が対応するのだが、声は女性だった。 「佐渡です。入ってもいいかしら?」  その声は、ハリのある伸びやかなアルトで、昼間のおどおどしたかすれた声とは、違う印象だった。 「どうぞ」  こんな時間に診察?だが、断る理由はなかった。  入ってきたのは、紛れもなくあの佐渡先生なのだが、まるで別人だった。  下ろした髪はふんわりとカールし、グロスで彩られた唇の横にはエクボが並ぶ。メガネをはずすと、つるを唇にくわえる。昼と同じメガネとは思えない、まるで女優の小道具だ。  マスカラでクルリと上を向いたまつ毛、僕をまっすぐに見つめる大きな瞳。そして、昼と同じ白衣なのだが、ボタンをはずし、はだけている。ブラウスのボタンも外され、意外なことにガリガリだと思っていた胸の谷間が強調されている。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加