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「かけても?」
先生は椅子に腰掛け、脚を組む。タイトスカートからスラリとした脚がのぞく。僕は、不覚にも生唾をのんでしまった。
「佐渡先生?」
「そうよ、佐渡彩子。冴えない新人女医」
ふふふ、と笑みを浮かべる。立ち上がり、メガネをかけると本棚を物色した。
「カミュ、サルトル、ボーボワール、サガン、そしてジョルジュ・サンドにマルキ・ド・サドまである。全部フランス語?」
先生は流暢なフランス語でタイトルを読み上げた。
「先生もフランス語を?」
「ええ、精神科医はフランス語を読めないと。父上もフランスに留学していた?」
また父のこと・・・嫌になる。先生は構わず続ける。
「フランス文学が退廃的なのは、アヘンとアブサンのせいだ。一方で、同じく病んだ日本文学は、まぎれもなく精神病者が書いているから」
佐渡先生はくるりと振り返った。微かに香水の匂いがする。ピアノを弾いているとき背後に感じる気配は、これか。
「ディオールのプワゾン。一度嗅いだら忘れない。君、鼻の穴が膨らんでるよ」
先生はぐっと近づいて、僕の鼻を人差し指でつついた。そして、書き物机に座って、また脚を組んだ。
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