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「君は、上手なピアニストだね。ここには古い楽譜がたくさん。ショパンばかり。ジョルジュ・サンドの本まである」
「母がピアニストなんだ」
「知ってる。カルテ読んだ・・・君はマザコン」
マザコン?
「そう、君はエディプスコンプレックスに支配されてきた。偉大な父、美しいが厳しいピアニストの母。期待を一身に背負って生まれた。医学部は一浪、二浪?父上に反発する気持ちも、理解できる」
佐渡先生はメガネをはずし、つるをブラウスの胸の谷間に挿した。
「そして、ピアノもここまで弾けるようになるのは、並大抵ではない。今日のエチュードは素晴らしかったよ。作品10の12『革命』・・・難曲だ。君の心の叫び。でも、君には限界だった。そして、ついに精神に異常を来した」
「ちょっと待ってください。僕は異常じゃない。たまたま、臨床実習でカチンときて、暴力を振るってしまった」
「そう?確かにカルテにはそう書いてあった。でも、それならなぜ君の父上は助けてくれない?」
「それは・・・」
「君はやはり何かしら精神疾患だと思うよ。統合失調かどうかは、わからないが・・・ゆっくり診察させてもらうよ。哀れなエディプス君」
「そんな・・・」
「じゃあ、また明日も来てあげるから。セクシーな女性は好きだろう?」
そう言うと、先生は部屋を出て行った。プワゾンの香りを残して。
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