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 翌日、佐渡先生は午前中外勤(ネーベン)で不在。昨日の出来事のせいか、心が落ちつかない。先生が触れた鼻の頭がこそばゆい。  昼食後は『子犬のワルツ』を少しゆっくり弾いた。母に習ったとき、この可愛らしい曲ですら、厳しくダメ出しされた。ここでは、自由に弾ける。  午後の診察。佐渡先生は、いつもの野暮ったいメガネの女医に戻っていた。おどおどした話し方、僕の方をまっすぐに見ることはない。  フランス文学の話題を振ってみたが、キョトンとしていた。あのスラリと伸びた脚、ぷるんとした唇、エクボ、そして胸の谷間・・・いったいどこへ消えてしまったのか。
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