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 食事(エッセン)は気が滅入る。先が落とされた箸、子供が使うようなやはり先の丸いフォーク。安全を配慮してのことだが、食べにくい。  昼食後、中庭に通じるドアの鍵が開けられ、みんなぞろぞろと出て行く。僕は食堂にのこり、壁際の安っぽいアップライトピアノに向かう。鍵をもらい、蓋を開ける。カビ臭いフェルトを、きちんと畳んで左端に寄せる。黄ばんだ鍵盤が並ぶ。  G#のユニゾン、スフォルツァント。そして左手のC#マイナートライアド、3連符のアルペジオ、アレグロ・アジタート。右手は16分音符の旋律、鬼気迫るポリリズム。  即興曲第4番嬰ハ短調『幻想即興曲』・・・機械仕掛けのように正確に、可能な限り速く。そしていったんラルゴ、そしてモデラート・カンタービレ、歌うように、叙情的に。オンボロピアノに魂が乗り移る。  ふと背後に人の気配を感じる。
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