さよなら

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さよなら

TVもネットニュースも見たくない。 紘一さんが逮捕されたニュースが流れるたびめまいがした。 「紘一さんはちゃんと高校を卒業するように、進学するならこれを使ってほしいと私が預かりました」 テーブルの上には俺名義になっている預金通帳と銀行印が置かれて、紘一さんの義兄弟という男から伝言を聞く。 初めて会った時連れてきてもらった喫茶店で、俺はまるで他人事のように説明を聞いていた。 俺が公園で男に襲われた時紘一さんは部下に「殺せ」と命令した。 あれは言葉のあやだったのに、忠実に実行してしまった組員と、使用者責任で組長と紘一さんは逮捕された。 「面会には…」 「来ないでほしいそうです」 きちんとスーツを着て冷徹そうな雰囲気の男が淡々と言う。 近寄りがたい感じで俺は話しにくかった。 相手も紘一さんに頼まれて事情を話に来ただけだろう。 「多分あなたにかっこよくない自分の姿を見られたくないんだと思いますよ」 仮面をはずしたように少しだけ笑顔を浮かべて男は言った。 通帳を開いてみる。 1千万入っていた。 「あなたの独立資金にしてほしいそうです」
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