さよなら

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遅ればせながら、と言って相手は名刺を取り出してテーブルに置いた。 柴田 美智雄 昔紘一さんが名刺を出して「読めないでしょ」と笑ったのを思い出す。 「紘一さんとはひとつ年下で、違う組織でしたがよくしてもらいました」 「…過去形で、言わないで」 今までのことを全て否定されるみたいで悲しかった。 涙が流れてきたが、うつむいたまま俺はそのままでいた。 「…綺麗な髪ですね」 「え…?」 「よく紘一さんが言っていました」 事件のことから話を遠ざけるためか、美智雄さんが違う話題をふってくる。 「進路は決まっていますか?」 「まだ高1だし、そんなに考えてない」 「お金は手に入りましたし、大学に進学することをおすすめします。紘一さんもそう望んでいましたよ。よく考えて決めて下さい」 伝えることは全て話した、そんな感じで美智雄さんは立ち上がった。 「そうなら…」 小さく呟いた俺の声に不思議そうに振り向く。 「俺を拾ってよ」 言葉の意味を測りかねたのかしばらく困惑した表情をしていた美智雄さんだったが、そっと手を出して俺にかざした。
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