新しい土地

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新しい土地

俺が公園なんか行かなければ。 あの時答えを曖昧にしておけば。 紘一さんは逮捕されなかったのに。 その場を取り繕うことができなかった自分を憎んでも全てが遅かった。 事件以来おとなしく勉強して、紘一さんが残してくれたお金で大学に進学できた。離れていても彼がさりげなく導いてくれることに感謝しながら、会えないことと俺のせいでこうなってしまった罪悪感で夜中一人で泣くこともある。 全てを耐えるしかない。 卒業式の日、門の前に黒塗りの高級車を並べて美智雄さんが立っていた。 「卒業おめでとう」 引っ越しの手伝いをしてくれた黒いスーツの若衆も来てくれて「おめでとうございます!」と独特の作法で迎えてくれる。 ありがたいんだけど前時代的な光景に視線が集中して恥ずかしくなった俺はみんなをクルマに押し込むようにして走り去ってくれるよう頼んだ。 「目立って恥ずかしいよ」 「だってこれから聡と一緒に生活できると思うとうれしくて」 卒業したら実家を出て美智雄さんと同居することになっていた。 「たまにしか会えなかったから寂しかったよ、聡」 「前向いて運転して、死にたくないっ」 荷物は少しずつ運んでいたので、後は身一つで移動すればいい。 俺が出ていくことを内心喜んでいる母親に挨拶せず、卒業式に出たその足で俺の「新居」に移った。 合格した大学はこんな田舎より都会で、世間体を気にすることもない人間関係の薄い土地。 誰も俺のことを知らない新しい場所で、息苦しさからようやく開放された。
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