新しい土地

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シャワーを浴びながら紘一さんのことを思い出す。 1度しか抱かれたことはないが、優しくて気持ちよかった。 美智雄さんは激しくて体力が持たなくて途中からやめたくなる。相性とかよくわからないし比べるほど経験はないけれど、行為が終わると体中痛い。 「入学式は一緒に行ってもいい?」 髪をふきながら浴室から出るとビールを飲んでいる美智雄さんがわくわくした顔で聞いてきた。 「一人で行くよ」 「えー、いいでしょ?ダメなの?」 「ダメってわけじゃないけど…」 「じゃ、スーツ買いに行こう。記念だしオーダーメイドで作る?」 「若いうちから贅沢おぼえさせないで、金銭感覚狂うから」 うっとおしさを感じながら俺もビールを取ってきた。 勝手に喜んで楽しんで、俺の意見はそこにはないが、生活費を出してもらっている手前何も言えない。 「都合のいい時は大人になるんだな」 深く座り背もたれに体重をかけて、未成年だけどビールを飲む俺に嫌そうな顔を向けてきた。 「ダメなの?」 「…ダメってわけじゃないけど」 禅問答じゃないんだから、と思いながら勢いよくプルタブを開けて一気に流し込んだ。 苦いしおいしいわけじゃないけど、この状況では飲まずにはいられない。 「紘一さんとはよく飲みに行ってたの?」 探るような、子どもが機嫌を悪くした感じで聞いてくる。 「1度だけ連れてってもらったけど」 ただそれだけなのに気分を害したみたいだった。 嫉妬かよ、わずらわしい。 紘一さんのことを早く忘れたいのに何回も名前を出されたらその度思い出してしまう。 そんな簡単なことにどうして気が付かないのか。
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