新しい土地

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「美智雄さんてどんな仕事してるの?」 今更だけど詳しく聞いたことがなかったのでこの際聞いてみた。 高いマンションに住んで高級車を乗り回し、俺に惜しげもなくカネを使う。普通のサラリーマンにはムリな贅沢な生活。 「企業のコンサルティングに似てる。組のモンの社会復帰のために会社起こしてそいつらを雇って仕事をおぼえさせてる。だから収益はないな。職業訓練校みたいなものだ」 「…ふうん」 それだけではこんな贅沢な生活はできない。他にも仕事をしているはずだがそれは話してくれなかった。 「紘一さんも似たような事をしていたよ。今の仕事は彼に勧められて始めたようなものだから」 また紘一さんの名前が出る。 「でも古い慣習にやられてしまったな。今どき義理人情は命取りだ。わかっていたはずなのにどうしてあんな衝動的な行動をしたんだろう」 それは俺のせい。 名前が出るたびに彼に対する罪悪感が湧き出す。俺があんなことになって昔の血が戻ってしまったんだろう。何の躊躇もなく「殺せ」と命令したあの顔が忘れられない。 手の中でぬるくなってしまったビールを眺めながら、俺はうなだれたまましばらく顔を上げられなかった。
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