偽善

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歓楽街の隅にある、暗い絵本にでも出てきそうな喫茶店に案内された。 店員は魔女でも出てくるのか?と思ったら普通のお姉さんが来て注文を聞いて奥に行った。 俺は烏龍茶、男はアイスコーヒーを注文して客の少ない店内に陣取る。 暑かったので正直助かった。 「君名前なんていうの?」 「人の名前聞く時は自分から名乗ったら」 見るからに怪しいこいつに名乗っていいのか迷ったし、とにかく俺はイライラいしていた。 男は名刺入れを取り出した。 1枚取り出す時、一瞬後ろに金の代紋が印刷されている名刺が見えた。 目ざとく見つけた俺に気がついて 「はいこれ」 会社名とアドレスなんかが書いてある地味な名刺。 神田紘一 「コウイチ。読めないでしょ、よく言われるんで」 読めるわ。 「俺は下田聡。字は…」 「聡いの、ソウじゃない?」 「当たり。何でわかった?」 「おお、勘が当たった」 なんでもない事に男、神田さんは驚いてみせた。 「そんで神田さんはさ」 「紘一でいいよ」 「こんな所でなにぶらぶらしてたん?」 俺は行儀悪くストローを口にくわえたまま聞いた。 「それはだってキミ」 動くと紘一さんの香水が広がる。 「美少年がいたら声かけるでしょ」 俺はうろついていた理由を聞いたのに返ってきた答えはよく理解できない言葉だった。 それに自分の容姿をあれこれ指摘されるのはあまり好きではなかった。
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