新しい土地

7/11
前へ
/71ページ
次へ
校門より離れた所でクルマを降ろしてと頼んだのに結局門の前まで送られてまわりの好奇心の目に晒されながら入学式にのぞむ羽目になった。 「言ったじゃん。離れた所で降ろしてって。おかげでジロジロ見られてさ、恥ずかしかったしこれから友達作れないかもしれないだろ!」 部屋に帰ってすぐ口喧嘩になった。 「俺と一緒にいるのが恥ずかしいって言うのか。何でだ、理由を言えよ」 いつものすましたインテリヤクザ風の表情が般若のようになって俺を攻めてくる。 「あなたじゃなくて、クルマ!ヤン車が嫌なの!俺はヤンキーじゃないもん!!センス悪!!」 キレた美智雄さんが手を振り上げる。殴られると思って目をつぶって体に力を入れてかまえた。 「……」 予想した衝撃は来なくて俺は恐る恐る目を開けてみると、腕をだらりとおろして感情が読めない顔の美智雄さんがいた。 そのまま無言で俺からはなれて、勢いよくソファに座り頭を抱えてずっと固まっている。 『出ていけ』と言われるかなと思ったがずっと無言で動かない美智雄さんにどう対応していいかわからず、俺は自分の部屋にこもった。 こういうのが痴話喧嘩というのかなと思うと俺も頭を抱えたくなった。どうしてこうなったのか考えたが、あまり相手のことを知らないまま勢いで動いたのが失敗だったと思う。 自分のうぬぼれに舌打ちしたくなった。 しばらくして俺の部屋に入ってきて、仲直りのつもりか俺を優しく抱いた。抵抗しない俺を見て許してもらえたとおもったのか、口先では「愛している」と繰り返す。 女の人ならこれで許すのかもしれないが男の俺は精神構造が違う。 一度冷めたら相手を想う感情なんておもしろいように消えた。 それからはお互いの悪い所だけ見えるようになった。揉めだすと二人とも我が強くてなかなか引き下がらない。 問題の落とし所がわからなかった。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

232人が本棚に入れています
本棚に追加