新しい土地

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「いい部屋だな、俺ここに住もうかなあ」 内見のように真剣に部屋を見ている。彼の財力ならここを借りれるのか。それは素直に羨ましい。 「キミはこれからどうするの?」 「…大学近くに部屋を借りて引っ越そうと思います」 「ふーん。じゃここは俺の管理化に置こうかな」 この時期に空き部屋があるのかわからないが、とりあえずここを出て何とかしなければいけない。 「なんか持っていきたいものある?」 すでにこの部屋は俺のものといわんばかりに言ってくる。 俺はソファを指差した。 「これ?」 「持っていきたいっていう希望です。現実的にはムリですけど。大きすぎて」 部屋の中にある家具の中でこれだけが一番お気に入りだった。 でもこれを置ける部屋を借りる財力はない。 「じゃあ預かっといてあげるよ。これくらいの部屋に住める身分になったら取りにくればいい」 「…どうも」 そんな日がくるのだろうか。 わからないけど、それを目標に生きてみるか。 「連絡先教えて」 「あ、はい」 俺がスマホを取り出して番号を表示しようとすると 「はいそれ」 貼り付けたような薄笑いを消して、真剣な顔で俺を見据えた。
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