それから

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「何で俺にヒットするかねえ」 目の前で笑っているのは山中伊純。 あれからたくさんのプロフィールを見ていた中に彼がいた。 「嫌ならアポ無視してもかまわなかったですよ…」 嘘だろ…、と最初は信じられなかったが、全く面識のない人よりは連絡しやすいと思ってメールを送った。 そして今ファミレスで会っている。 俺は緊張して借りてきた猫のようになっていたが、彼は慣れているのか、初めて会った時と同じポケットに手を突っ込んだまま足を組んで座っている。 こうやっていろんな男と会って何かに利用しているんじゃないか、そんな疑いもあったが、正直俺は今の生活に音を上げていた。 「山中さんてその…、あの」 「性癖のこと?」 「はい」 今さら聞くの?とニヤニヤ笑いながら 「どっちでもイケるけど、男のほうがいいかな」 バイセクシャルってやつか。 いろんな人がいるんだなとどこか他人事に聞いていた。 「あのソファ」 「え?」 「ちゃんと預かってるよ」 初めて紘一さんと会った時彼が飲んでいたアイスコーヒーを、今目の前の男が同じものを飲んでいる。 「見に来る?」 次の展開がわかるような誘いだった。 「捨ててもらっていいです」 「預かってるというか、勝手に使わせてもらってるけど」 そういって胸ポケットから茶封筒を取り出した。 「今日のデート代」 中を見ると10万入っている。 「この時間は俺が買ったってこと。そういうシステムだから。規約ちゃんと読んだ?」 相変わらず無防備な奴だなと言って山中は苦笑いしていた。
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