それから

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「ただ会っただけでこんなにいただけません…」 俺はその封筒を彼のほうに押した。 「今日の出会いでOKだったらまた連絡し合う、NOだったらこれで終わり。とりあえずこのカネは今日会った分だからもらえるもんはもらっとけ」 どうしたらいいものか、判断できなくて黙ってしまう。 「俺はまた会ってやってもいいぜ」 上から目線で言われた。カラカラとストローで氷を回しながら俺の出方を見ている。 その仕草が紘一さんを思い出させた。 何も言わずぼんやりそれを見ていると、ストローを上げていきなりコーヒーのしずくを俺の顔に投げてきた。 「冷た、何すんだよっ」 「無視すんなっての」 残りのしずくが封筒に落ちる。やっぱりお金は受け取らずに返してこれっきりにしようと思って立ち上がった。 「おい」 すり抜けようと思った俺の腕をあっさり捕まえられる。 「こんな濡れたカネいらねーよ。持ってけ」 封筒を無理やり俺におしつけて山中さんは残りのコーヒーを飲みきった。 「次は飲みにいこうぜ」 「…お酒はちょっと‥、強くないし」 「じゃあ会うまでに強くなっとけ」 俺がNOとは言わないと判断したのか、個人的な誘いだったのかわからなかったが、10万円もらったせいで強くは断れなかった。
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