それから

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夢の中でも紘一さんに説教されたな。 そう思いながらぼうっとシャワーを浴びて部屋に戻ると、伊純さんは起きていてカバンをつかんで俺を待っていた。 「帰るぞ」 そう呟いて俺の前を横切る。俺はあわてて自分の荷物を持って後に続いた。 気まずいエレベーターの空間に耐えて蒸し暑い外に出て、伊純さんにタクシーを呼んでもらう。 無言でタクシー代を渡されて一人乗せられた。 「気をつけて」 そう言われて不安げに伊純さんを見る俺と目を合わさずに彼は歩いていく。 「…‥っ」 何か言いたかったが言葉が出なかった。 『何で寝ちゃうんだよ俺は』 泥酔しているわけでもないのに一緒に飲んでる相手が寝てしまったら、自分の話はそんなにつまらないのかと思われてしまう。 体質なんだろうけど、その場はしらける。 酒癖悪いだけじゃないか。 これからは誰に誘われても断ろう。飲みたい時は自分の部屋にすれば寝ても誰にも迷惑はかけない。 何より酒を飲んで起きた時の憂鬱な気分がイヤだった。 紘一さんに会いたい。 夢に出てくればくるほどその思いは強くなって寂しい気分になる。 泣き顔を見られたくなくてずっと下を向いていた。 部屋に着いてから伊純さんに謝罪メールを送ったが返信はなかった。
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