落とし穴

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合計30万。このお金を受け取る自信がなくてまたメールした。 『お金を返したいから連絡ください』 何のひねりもないストレートな文だったが、数時間後返信が来た。 『足りなかった?』 「そうじゃなくて、多すぎるし働いて得たカネじゃないから受け取れない」 すぐに返信が来る。 『わかったから時間ある日教えて』 たまたまシフトが入っていなかった週末の夜を告げると駅で待ち合わせることになった。 「はあ…」 ため息しか出ない。 悪友の誘惑に乗らなければよかった。 でも実際金欠で苦しかった俺はつい乗ってしまった。貧すれば鈍するを地で行った。お金がなくても人は変わる。 暑い夜、冷風が届く位置でぼーっと待っていた。 すぐ帰るしと思ってTシャツにジーンズという楽なスタイルで来た俺。 伊純さんは待ち合わせ時間より遅れている。 このままドタキャンされるのかと心配になってきて当たりを見回してみたがそれらしき人はいない。 メールしてみようとスマホを取り出した時、声をかけられた。 「あいかわらず無防備で突っ立ってんな聡くん」 そーっと後ろを見ると待ってた人物が立っていた。あいかわらず黒を基調にしたゆったりとした服で、逆に目立つのに俺はみつけられなかった。 「遅刻しといてすごい言い草ですね」 「とりあえず飲みに行こ。暑いわ」 「いや、俺は…」 「お前はジュースでも飲んどけ、行くぞ」 こんな大勢の人がいる所でお金を出すんじゃないと制止されて仕方なくついていった。
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