偏屈

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熱帯夜、俺は伊純さんに呼び出されて駅で待っている。 壁を背に、まわりが見渡せる位置で目線を泳がしていると改札口から出てくる伊純さんを見つけた。 暑いのにスーツを着て俺を見ないように近づいてきて腕をつかまれる。 「お久しぶりです」 俺が普通に挨拶すると「おう」とだけ言ってどんどん進んでいく。 「今日も暑いな」 しばらくして腕を解放されて前に連れてきてもらった居酒屋のカウンターに陣取った。ここなら注文しやすいし、横向きだと話しやすい。 「スーツだから余計暑いんじゃない?」 「仕事帰りだ」 もう一緒にいても変な緊張感はなく、普通にしゃべれるようになった。 油断はできないけど。 次にされる事といったら殺されるくらいだろう。 「…腹減った」 ぽつりとつぶやく伊純さんは心なしか疲労の色がすごい。 「お酒飲んだら寝ちゃうんじゃない?」 「かもな」 伊純さんはビール、俺はハイボールを頼んで、伊純さんはかなり多めにつまみを頼んでいた。 「ちゃんと勉強してるか?勤労学生」 「そろそろテストだよ。レポートもあるし時間足りないから今月のバイトのシフトを調整中」 「なつかしいな、そういうの」 そう呟きながらこちらが心配するくらい早いペースで飲んでいた。 「だいぶ疲れてる?」 「うるせえな」 疲れてるのにわざわざ誘ってくるんだから言いたくなったら話しかけてくるだろう。 憎まれ口も、もう慣れた。
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