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髪を伸ばし始めた。 色も今まで変えた事がなかったけど、少し明るいブラウンにする。紘一さんも気に入ってくれてたこの髪をあえて似合わないカラーにした。 服は大学生風のまま変えなかったが、毎日同じようなものを着ないようにした。 鏡に写る自分を凝視する。 これだけでも結構イメージが変わるもんだなと我ながら感心した。数少ない友人も最初は俺だと気が付かなかったと言われた。 バイトはコンビニなどの自分が全面に出るものを辞めて、厨房や清掃など直接人と関わらない仕事に変えた。裏方なら髪色もうるさく注意されない。 「オシャレに目覚めたか?勤労学生」 伊純さんは俺の意図がわかっていると思うからいちいち反論はしない。 美智雄さんに見つからないように今できることは見た目を変えることしかできない。 「合格だけど小道具が足りないな」 部屋に遊びに行った時、細いフレームのメガネをかけてくれた。 「馬鹿でも賢く見える必須アイテム」 滝廉太郎にしか見えない、と思ったが改めて鏡の自分を見ると似合っている。 「買いに行ってくれたの?」 メガネも初体験で俺は自分の顔を飽きずに眺めた。 「ちょうどいいのがあったからついでにな」 聡のために買いに行ったとは絶対言わないけど、たまには言ってほしい。 「来る時直通で来なかっただろうな」 「違う階で降りて後は階段で上がってきたよ。毎回変えてる」 「それでよろしい」 鏡でしげしげと自分の顔を見ている俺の後ろ髪を撫でながら何か企んでる妖しい伊純さんが写り込む。 「これが鏡の本来の使い方だな」 「…本当だよ」 この前の醜態を思い出して顔が真っ赤になった。
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