蓮の花

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「話変わるけど、進路決めた?」 ビールを注文しながら伊純さんが聞いてくる。 「一応、決めたけど。まだぼんやりとしか」 本当は決定してから報告したかったが、聞かれたから答えないといけない。 「お、やっとこれでお前とは縁が切れるな」 「どうせなら完全に切れるような仕事に決めた」 「言える範囲で言ってみろよ」 多分一般企業や今風のIT関連だと思っているんじゃないだろうか。 余裕の笑みでこちらを見ている伊純さんを見て、深呼吸した。 「警察」 俺は一生分の勇気を使ったんじゃないだろうか。 さすがに伊純さんの動きが止まった。 「…ふぅん」 「国家権力が欲しい」 この心臓の鼓動が振動で伝わるんじゃないかと思った。 「まあ、試験に受からないと何ともいえないけど。あくまで希望だから」 「そんなに頭良かったんだ?」 「国家公務員試験だから難関だけど、受けてみる」 伊純さんの目が見れない。 「だったらなおさら俺と離れたほうがいい。知り合いに反社会勢力がいたら合格しても採用されないよ」 いつも俺を小馬鹿にしたような態度で笑っている伊純さんに初めて優しく言われた気がした。
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