蓮の花

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いつも以上に激しく扱われて体が痛い。 シャワーを浴びた伊純さんが部屋に戻ってくる。 「動ける?」 「…なんとか」 どうせ家に帰るまで汗をかくと思ってこのまま出ていくことにした。 「下まで送る」 「うん」 うなだれて顔を上げられない俺を鼻で笑って 「それくらいで腰痛めるなよ青年」 ボディガードを前に、エレベーターで伊純さんにもたれて何とか立っている。 やっと彼の悪態にも慣れてきたのに、これで終わりかと思うと言葉が出ない。 何か言わなきゃ、言い残したら後悔する。 まだタクシーは来ていない。 よろけながら外に出ると急に伊純さんが自分の後ろに俺を隠した。 伊純さんが盾になっている状態。 「出所おめでとう、美智雄」 皮肉な声の向こうには、美智雄さんが立っていた。 短い髪と地味な服で一瞬わからなかった。 真っ先に伊純さんのマンションに来たのは何故なのか。俺の知らない何かが二人の間にあるのかもしれない。 「何で聡がお前といるんだ」 地獄の底から発したような不気味な声で美智雄さんの声が聞こえる。 「お前がいなくなって聡が一人で生きていけるわけないだろ」 伊純さんが背中のホルダーに手を伸ばした。 「ここで虫は潰しておくか」 手の平に収まる小さなセミオートの銃が美智雄さんに向けられた。
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