闇に咲く華

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「同情ならいらないからね。迷惑だし」 「それで良いのか?」 「これが僕の人生だよ。親が子供を愛する? 全員がそうとは限らないさ。僕は大人が嫌い。あんな馬鹿な連中とは、僕は違う」 「ああ、違うとも。お前はお前だ律。ひとりの人間だ。振り回されて良い人間じゃない」 「…ふふ。先生、熱血型? あんたみたいな大人見た事無い。ねぇ。行きたい所が在るんだけどさ…」  先生も来る? と、律は立ち上がった。      律の後ろを連いて歩くと、その先に病院が見えて来た。律はエレベーターに乗り、六階のボタンを押す。竹塚は壁側に寄り、上昇する番号のランプを眺めた。 「特別室?」 「六階は特別病棟なんだ。全部で五部屋在るし、院長室や会議室、ナースステーションが在るよ」 ポンっと音が鳴り、二人は降りて手前の病室の前で止まった。表札には『堀井 浩一』と書かれている。スライド式のドアを開けると、看護師が点滴の調節をしていた。 「あら、律君」  看護師は背後に居た竹塚にお辞儀をする。 「今日は体調が良いみたいよ?」 「そう、良かった」  傍に在ったパイプ椅子を引き寄せて、律は腰を下ろす。看護師はもうひとつの椅子を持って来てくれたので、竹塚は礼を云う。 「毎日来てるんだ」  律は浩一の手を持って、手の甲を温めるように摩る。 「本妻は相変わらず来ないから、寂しいだろうって思ってさ。本当は僕なんかが来ても、浩一さんは喜ばないだろうけど」 「そんな事は無いだろう。きっと喜んでいるさ」 「だと良いけどね…」  本当は昔殺されかけたんだよと、敢えて言わないでおこうか。 「もし、もしもなんだが、お兄さんが目覚めたら、君はどうする?」 「先生ってさ『君』とか『お前』って色々だね。う~ん、浩一さんが目覚めたら? 僕は確実にあの家から追い出されるな。行く所無いや。でもそれでも良いかな。籠の中は飽きたからさ…僕は自由が欲しい。なりたいと思っていない医者にならずに、本当の夢を見付る。今の僕の贅沢な夢だ」  でもさ。と律は云う。 「浩一さんはあの家の呪縛から逃げたくて、こうなったのかっなて思う時があるんだ」 「…本人しか解らない事だな」 「…そうだね」 「さっきの……話の続きだけど、もしもお兄さんが目覚めて、あの家から出るような事があったら……俺の所に来ないか?」  律は浩一の手の甲を摩るのを止め、隣のパプ椅子に座る竹塚を見た。 「は?……何云って…?」 「本気だ律。お前の事が頭から離れない。お前を思うと胸が苦しい」  その言葉に、真っ赤になった律は眼を逸した。 「子供相手に、」何プロポーズみたいな事ぬかしてんのさ!?」  ドクドクと胸の鼓動が鳴る。眼が潤んで泣きそうだ。 「云ったろう? 本気だって」 「……ふ、ふ~ん…考え、とく」  耳まで真っ赤になった律の肩を引き寄せ、竹塚は顳かみにキスをした。律はギュッと双眸を閉じる。もう傷付きたくない。信じて縋って結局捨てられるのは、一度で沢山だ。
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