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女生徒が泣き出す。要は彼女のコンプレックスなのだ。それを知っていて律は云い放った。
「酷いよ律」
泣き出した友人の背中を摩りながら、もうひとりが律を非難する。
「その酷い事を、てめぇらは平気でひとりの人間にヤってんだよ。もし自分はお綺麗だなんて思ってんならオメデタイよな? 自分のストレスの捌け口に、他人を傷付けてんじゃねーよ、このボケが! 何様だお前ら!」
びくりとその場に居た生徒達が震える。
「戻ってきたら謝っておいた方がいいぞ?」
平川が、教室を出て行く律を見遣り、教室内に居た生徒達に云った。
「律、此処は保健室なんだけど?」
保険医が苦笑しながら、ベッドに居る律を覗く。白いカーテンを開ければ、不貞腐れた律が胡座をかいて、ベッドの上に居た。
「いいじゃん武ちゃん、減るもんじゃなし」
減ったら困るよと、保険医が笑う。その隣のベッドには、先程教室を飛び出して行った細木が、布団を被って丸くなっている。泣き疲れたのか、小さな寝息が聞こえだした。
「武中先生、こっちに堀井来てませんか?」
竹塚が保健室にやって来た。机に在った鞄に気付いた竹塚は、授業に出ない律を探して回っていたのだ。このまま自由にさせていたら、出席日数が足りなくなるのだ。それは避けたかった。
「来てますよ?」
早く連れて帰れと、顔には書いている。
「平川から聞いたぞ? お前は良いから教室行け。後は俺が…って、寝てるし」
「おやおや」
つい今し方まで起きていたのに。と、清水が苦笑する。すや~と枕を抱えて眠りこけた律の頭を撫でる。
「この子、面倒見が良いでしょう?」
「良いんですか?」
「ひどいな~。律は結構人気ありますよ? この子が怒るのは珍しいかな。ま、間違った事は嫌い。だから、去年なんかは英語教師が体罰で問題になった時は、PTAに詰め寄ったぐらいですかね。生徒を守るのが学校の義務だって。で、律格好いいって、女子のファンが増えましてね。本人何処吹く風ですが」
「それは…凄いですね」
「…律の家は複雑ですからね。大人に対して警戒するのは仕方ありませんよ」
保険医の言葉に、竹塚は双眸を見開いた。
「彼をご存知なんですか?」
「知ってますよ? 律の父親と私の母親が兄妹なんでね」
「それは驚いた…律とは従兄弟同士でしたか。どうも竹塚です。偶然ですね、俺は堀井直子の従弟です」
「そうなんですか? 驚きですね。それじゃ私達は親戚同士ですか。世の中狭いな」
「本当ですね。俺もビックリです」
二人は握手をしてベッドに寝転がる律を見る。
「律は気の強い子ですが、寂しがり屋なんで宜しくお願いしますよ?」
竹塚はドキリとした。そこへチャイムが鳴る。
「あ、チャイムが鳴りましたね」
清水が授業開始のベルに、律の居るベッド脇に歩み寄った。
「ほら、起きろ律」
「ん~~~、やだ、武ちゃ…」
清水が律を揺さぶる。律は気怠けにまだ眠いと唸った。竹塚は何だか面白くない。
「おい」
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