闇に咲く華

15/54
170人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
 竹塚が律を肩に担ぎ上げたのだ。清水はポカンと見詰める。 「え…うわっ!?」  清水と隣のベッドに居た細木が驚愕した。律はいつもとは違う、高い視線の位置に慄いた。  昼食の時間まで不貞腐れていた律は、いつまでもニヤついている、平川の脚を机の下で蹴った。 「いつまで笑ってんだよ?」 「いや~。あの新任教師、律を担いで教室に現れた時は、女子達のあの黄色い悲鳴凄かったな~」  その後女子達が律に謝ったので、怒りは取り敢えず収まったのだが。 「…面白くない」  律は購買で買った焼きそばパンを齧る。 「そういえばさ、あの後細木の奴教室に戻らなかったな」  保健室で寝ていた筈の細木は、清水に帰ると云って、帰ってしまったらしい。竹塚は竹塚で、女性陣の熱い視線にこれまた何処吹く風と、全く気に止めずに教壇に立っていた。 「…いつからだ?」  律の問いに平川が首を傾げる。が、直ぐに細川の事だと気付いた。 「う~ん。細川ってさ。小さい時からモデルやってるらしくてさ。僻みじゃねえかな?」 「そんなくだらねえ事で? 女って解らねぇ」 「俺は男で良かった。こえぇな」  二人は溜め息を零したのだった。  律は浩一の病室に入ると、背後から堀井和也が律を呼んだ。 「看護師から、お前が来ていると聞いてな」 「……別に。暇だし」  律の手には花を活ける為の、花瓶が抱えられている。和也は目を細める。 「綺麗な花だな」 「…そう?」  律は花を活けた花瓶をサイドテーブルに置くと、和也は眼を細めて口を開いた。 「最近は家ではどうだ? 今直子は妊娠中だから、色々と気を使うだろうが、何かあっても悪気があって、お前に八つ当たりしてるんじゃない。その時は解ってやってくれないか」  ーーー八つ当たりなんて、生易しい物じゃない。 『浩一さんがあんな事になるなんて、お前は疫病神よ!』 『あの女の子供にお母さんなんて呼ばれたくないわ』 『こんな問題も解けないなんて、家庭教師の先生に云われて、私がどんなに恥ずかしかったかっ』 『ごめんなさい、ごめんなさいっ僕いっぱいお勉強するから』  嫌わないで。  どうしてみんな僕が嫌いなの?  僕が何をしたの? 『浩一さんが後継になるのよ、あなたじゃないわ!』  この男は、妻の云い放つ言葉がどれだけ律の心を殺すかなど、考えもしないだろう。愚かで哀れな父親だ。 「…もう帰ります」 「あぁ。そうだな。律、大学は私の出身校に進みなさい。そろそろ進路相談があるだろう? 直子に頼んでおくから」
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!