闇に咲く華

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「…熱はなさそうだな」  携帯を片手に話す竹塚に、律は初めてそこで竹塚が誰かと話しているのに気付いた。 「飯は俺の実家で良いか?」 「え?」 「この地域の範囲内で二人で飯食ってたら、誰に遭遇するか解らねえだろ? 一応俺は教師だし。見られて特別扱いって云われても、正直困るからな。お前も落ち着いて食えないだろう? それに丁度お袋から顔見せろって、煩かったから」 『聞こえてるわよ? 翔』 「っ!」  携帯の向こう側で、女性の声がしたのに驚いた。律は双眸を見開いて竹塚を見た。竹塚は苦笑して人差し指を、唇のまで立てた。律はそんな仕草にキュンとする。 「俺の実家で良いか?」 「う、うん」  律は思わず頷いた。竹塚が教員の独身寮に入っていることは、後になってから知った。 「よし。あ、もしもし? お袋、おまけがひとり着くけど」 『そうなの? 丁度煮物を多めに作ったから、連れていらっしゃいな』 「了解。じゃ、これから向かうから」  とんとん拍子で話しは進み、律はいつの間に校舎から出て、職員専用駐車場にたどり着いたのか、記憶に残らないほどボウッとしていた。  竹塚の実家は新越谷から少し離れた住宅地に在った。四台分の駐車スペースに車を停めると、家の中から犬の吠える声が聞こえた。 「…犬?」  車から降りた律は、犬の声に小さく呟いた。大きな日本家屋に大きな敷地。地主かと思うほどに立派だ。 「ん?」  竹塚が灯りの着いているリビングの方へ眼を向ける。そういえば、堀井家では動物を見なかった。 「うちの犬はでかいぞ」 「でかいの?」  好奇心な眼差しが、竹塚を捉える。竹塚は眼を細めた。早く触りたいとウズウズしているようだ。日本家屋の立派な住宅だ。庭が広く、池が在るらしく、小さな噴水の音が聞こえる。住宅地内でこれだけの敷地面積だ。きっと親が高収入なのだろう。 「セントバーナードだからな」 「うわ」  双眸を見開く律を苦笑しながら、律を玄関へ案内する。鍵を開けると、真っ先に出迎えたのがセントバーナード犬だった。広い玄関に掃除が行き届いたピカピカの床。尻尾をぶんぶんと振るセントバーナードが、竹塚にお帰りとお座りをして待っていた。 「でかい…」  セントバーナードが、この人誰? と竹塚と律を見比べる。 「律、こいつはレオって名前だ。レオ、この子は律。飛びかかるなよ?」  ジッと律を見詰めるレオに、律はこわごわと「よろしく」と声を掛ける。 「ワンっ!」  返事をすると奥から女性が現れた。 「お帰りなさい、翔」 「ただいま」  女性が律を見て微笑んだ。律は紅くなってお辞儀をする。 「こんばんは」 「翔の生徒さん? いらっしゃい。さあ上がって。お腹空いたでしょう?」 「はい。あの、僕堀井律です」 「……堀井?」
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