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「これは私とあの女狐の子供の問題なの。ねえ、あんたゲイだったわよね」
竹塚が直子を見る。
「安心して。伯母さんや母さんには内緒にしてあげるから。それよりあんた私に協力してよ」
「……協力?」
何を云い出すのかと身構える。
「今週三連休じゃない。うちの別荘貸すから、あの子を監禁して犯して。そうね、写真でも撮ってデーターを私に送りなさいよ。写真を現像して主人に送り付ければ、あの子供を後継者から外すかもしれないじゃない?」
「なっ!?」
竹塚は絶句して拳を握る。
「いい加減にしろよ、律をなんだと思ってるんだ!?」
「あんたが遣らないなら、そこら辺の男使っても良いのよ? もしかしたら顔を見られたからって殺しちゃうかも。私は別に構わないけど。私の依頼だってばれないようにするし?」
「っ」
竹塚は末恐ろしさを感じて唸った。この女と同じ血が少しでもこの身体に流れているとは思いたくはない。
「他人は……勘弁してくれ」
「ふふ。解ってくれると思っていたわ」
直子は車のドアを開けて運転席に収まると、病院を後にした。
――ーなんて女だっクソっ!
律は竹塚に自宅まで送って貰うと、欠伸をしながらベッドに腰を下ろした。
『今週末旅行に行こうか』
別れ際にそう竹塚から誘われた。親の別荘に誘われてレオも連れて行くと云われたら、断れない。犬を連れて散歩をするのがしてみたかったのだ。
―――旅行か。偶には良いかも。レオと遊べるし……。
律は遠足前の小学生の気分で、わくわくしながらカレンダーを見詰めた。
当日の朝、冷めた朝食を自室でいつものように済ませると、廊下に出したワゴンに律は食事の用意はしなくても大丈夫だと、メモ書きした紙を載せて着替えを入れたバッグを手に門へ向かった。心なしかウキウキして鼻歌を歌いそうだ。
ふと視線を感じて母屋の方へ顔を向けると、カーテンがサッと閉められる。その部屋は直子の寝室が在る。律はそっと溜め息を零した。
先日、浩一が目覚めた。身体が回復すれば病院の跡継ぎは浩一で決まり、堀井家は安泰だ。そうすれば律はこの家に居る必要が無くなる。先のことなどまだ解らないが、律には希望が持てた。直子の虐めから解放されると思うと、不思議な気分だった。
律は門を開けて出ると、丁度そこへ車が近付いて来た。竹塚だ。今日は黒いステップワゴンだ。後部座席にはシートを倒してレオが乗っていた。
「ワン!」
「おはようレオ。先生」
「おはよう律。俺は二番目か?」
「妬いているの?」
「まあな」
律は笑って荷物を後部座席に置くと、助手席に乗り込んだ。車は住宅街を抜けて産業道路を走る。
「行く前に病院いい? 浩一さんの様子見てから行きたいから」
「了解」
ウインカーを右に出して右折ラインに入った。
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