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「また明日な律!」
「おう」
右方向へ行く平川へ、律は振り返らず手を上げて云う。竹塚は黙って律の後を連いて歩く。車が横を走る。サラリーマンが急ぎ足で駅へ向かう。擦れ違う人々を避けながら、竹塚は律の華奢な後ろ姿を見詰めていた。が、老女にぶつかりかけた竹塚は、慌てて夫人に謝り、前方を見た竹塚はその時、律を見失ったのだと気付いた。ビルとビルの隙間に隠れた律は、慌てて駆けて行く竹塚の姿を不思議に思った。
「なんでそんな必死なんだよ」
歩道に出た律は、逆転して竹塚の後ろを歩く。自転車を避け、人混みの中をキョロキョロと見渡す。
―――背、高いな。肩幅の広さや精悍な横顔や。
律は黙って竹塚を見詰める。そこで擦れ違う女性達の、竹塚を振り返り頬を染める姿に不快を感じ睨んだ。見るな、見るな、見るな。あいつを見るな。
―――その男は駄目だ。あの人達は、僕とその人がSEXしたって知れば、どんな顔をするだろう?
不思議な優越感に、律は胸の奥を疼かせながら、「先生」と口にしていた。竹塚が振り返る。律の姿を見た竹塚の、ホッとした顔に泣きたくなる。大人なんて皆同じ筈なのに、何故だろう? この男は何かが違う。
「なんであんたは」
「…何?」
クラクションで律の言葉が聞こえない。律はスッと歩み寄って竹塚のネクタイを掴み、引き寄せた。律は爪先立ちして、竹塚の唇を奪った。キスはこんなにも優しかったか?
「きゃあ!」
擦れ違った女性が驚く。竹塚は双眸を見開いた。律の唇が竹塚の唇に重なり、律の舌が竹塚の舌をを絡める。傍でサラリーマンが口笛を吹いた。
「……お前な…」
「ねえ? してよ」
「っ!」
竹塚は腰に熱を感じ、律の腕を掴んだ。近くの駐車場に停めておいた車の、後部座席に乗り込んで席を倒す。互の服を脱がし合いながら、舌を絡め合い唾液を飲み込むと、竹塚は律に覆い被さった。
「ふふ…。教師が良いのかよ? こんな所で生徒といけない事してさ?」
「誘ったのはお前だ、少し黙れ…」
性急に求めて律の乳首を弄る竹塚の手が、律は素直に嬉しいと思った。のだが、竹塚が顔を上げて律の眼を覗き込んだ。だが、律はぼんやりとその眼を見返す。
「律、お前何を怖がってる? 何かから逃げてるようにしか見えないぞ」
律は双眸を見開き、唇を震わせた。何故それを云う? 何故この男がそれを言葉にする?
「…何でなんだよ、何であんたが…、みんな…みんな大人なんてあの女達と一緒だよ! 大人なんて皆所詮同じなんだよ!」
「おいっ!」
いきなりキレた律に竹塚は驚愕した。
律はバッグから財布を取り出し、竹塚に投げ付ける。中から札がパサっと飛び出した。
「っ!?」
「あんたは僕が売春でもやっていると思ったんだろ? 残念だったね、あんたから受け取った金だ。全額入ってる。使っちゃいれえよ!」
呆然とする竹塚を尻目に、律はワゴン車から飛び出した。
「あ、おい!」
竹塚は溜め息を零して、手の中の財布と、飛び散った万札を見詰めていた。
「なんであんなに大人を嫌うんだ?」
―――律は何故泣きそうな眼をしているんだ? どうしてこんなにも律が気になる? それは……身体の相性が良かったからか?
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