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「それだけじゃない…よな?」
竹塚は自分の服を整えた。ふと、竹塚はある事に気付いた。
「そうか、俺は…あの子が好きなんだな」
その言葉がしっくりと来る。大学生だと嘘を付かれたのはショックだったが、十五の子供に本気になるなんて…。騙されていた頃は愛しいと間違いなく思っていた筈だ。これは、この感情はその延長戦だ。
「好きか…うん。そうか。という事は俺はロリコンの変態だったのか…ショックだな」
それだけではない。それ以上の罪を竹塚は犯していた。ひとり納得した竹塚は、さて、この先はどうするかと頭を悩ませた。
「堀井律か」
先ずは律の大人への不信感が、何処から来るのかを知らなくてはいけないと思った。
翌日、竹塚は律の教室を覗いたが、今日はまだ来ていないと云われた。連絡も入って来ていない。とうとう一日学校に姿を見せなかった。律の自宅に電話を掛けると家政婦が出て、母親に取り次いで貰った。
『まあ。…翔、珍しいわね。どうしたの?』
堀井の妻が親しげに竹塚を名前で呼ぶ。それもその筈だ。
「姉さん、そこに律居る?」
姉さんと云っても、兄弟では無い。母親の妹の子供で、竹塚とは従姉という関係だ。
『……なんで律をあんたが知ってるのよ?』
「それが偶然、俺の勤務先になった学校に堀井律が居たんでね」
『あら、そうなの?』
心底どうでも良さそうに返答された。律の養母は竹塚の従姉であった。
「名前も聞いてなかったし、顔も見ていなかったから知らなかったんだが……律から俺の事何か聞いてない?」
『聞くも何も、私もあの子もお互い嫌っているから、私は何も知らないわよ。あの子ったら愛想も無くて陰険だし。衣食住がしっかりしてるんだから、感謝してほしいものだわ』
「……そういえばお袋がおめでたとか云ってたけど、身体は大丈夫?」
―――愚痴を聞くために電話したんじゃないんだが?
『おかげさまで。浩一に何かあったらお腹の子に跡を継がせるんだから…今から診察なのまたね』
「お大事に」
竹塚は通話を切り、思案して辺りを見渡した。放課後のこの時間、生徒が職員室に何名か来ている。校庭には部活をする生徒の声が聞こえる。
「どうされましたか?」
恰幅の良い教頭が、竹塚に気付いて話し掛けて来る。
「いえ。きょうはまだ生徒がひとり登校していなかったので。堀井なんですが」
「あぁ。彼ですか」
「知ってるんですか?」
家庭事情を知っているのかと、竹塚は席から離れて教頭へ歩み寄った。
「私は彼の父親とは同級で此処のOBなんですよ」
「…そうでしたか…」
世の中狭い物だと竹塚は思う。教頭は此処では何だからと校長室へ促した。
「校長は理事会で呼ばれていますから」
ソファーに座るように云われ、従うと教頭は向かい側に腰を下ろした。
「堀井の家はひとり息子が居りましたが、不慮の事故で今、意識不明の重体でしてね」
「…え?」
事故は実家の母親から聞いていたので、一度見舞いに行った事はあったが、ひとり息子と云ったのかと、竹塚は首を傾げた。そういえば。
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