闇に咲く華

40/54
123人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
 和也はその後、次男への殺人未遂で懲役五年。直子は育児放棄が使用人の証言により表沙汰になり、和也の愛人を長男と共謀しての殺人犯。長男は殺人共謀、赤子の殺害遺棄、赤子のすり替え等の、罪の意識から自殺未遂で数年の間、植物状態だったのを鑑みて、裁判員裁判は同情の余地有りとし、執行猶予三年で留めた。  竹塚の母形の親族は、直子とは絶縁し律を直子の母親が引き取る話しになったが、夏紀は頑として反対し、自分が引き取ると云い張った。これには直子の母親はホッとしていたのを、竹塚は愚痴として聞かされたのだが。 「なぁ。律、お前はこのまま戻らないのかな……」  平川が鳴き声で問う。 「俺、律がずっと家族の事で苦しんでたの、知らなかったんだ。俺悔しくて、眼ぇ覚めたら一言文句云ってやるんだ」  ボロボロと涙を流す平川の頭を、滝本が優しく叩く。 「信じようじゃないか。堀井律は必ず戻って来るって」  病院の外で滝本と平川の二人と別れると、竹塚は再び律の居る病室へ向かった。正面玄関には未だマスコミが張り付いて、看護師達は泣きながら、何も知らなかった律が浩一へのリハビリを経緯をマスコミに伝え、世間から『悲劇の少年』と伝えられた。病室にはいくつもの段ボールに、沢山の手紙が入れられ(念の為竹塚の母親が中身を確認して)ている。  竹塚は律の手を握りしめて、指先にキスをした。 「いつになったら、眼を開けてくれるんだ? お前は男で『眠り姫』じゃないだろう?」  何も答えない律の手は、暖かかった。  竹塚は教室の後方からHRを眺めている。律の意識不明から三ヶ月が経った。世界中がクリスマスシーズンで、律の席は今も空いたままだ。 「先生さよなら」  生徒達が竹塚に声を掛けて廊下へ向かう。竹塚はハッとして振り返った。 「あぁ、気を付けて帰れよ」  声を掛け返したが、もう生徒の殆どは教室を後にしていた。 「大丈夫ですか? 竹塚先生」  滝本が心配そうに声を掛けた。 「すみません、ボウッとしていました」 「構いませんよ偶には。但し運転中でなければの話しですけれどね」  竹塚が滝本に苦笑する。 「気を付けます」  滝本は頷いて、竹塚と職員室へ脚を向けた。 「早い物で、もう少しでクリスマスですね。竹塚先生は実家で過ごすんですか?」 「え」 「クリスマスですよ。家は子供がプレゼントにゲームを強請られまして。成績も上がった褒美ということで」 「大変ですね」 「それはもう。あ、私は外で電話をしてから行きます」 「はい」  滝本が携帯を見て慌てて職員昇降口へ向かう。竹塚は溜め息を零して、窓から空を見上げた。  竹塚が律の見舞いに行く前に一度帰宅して着替えていると、夏紀が階下から呼ぶ声がした。慌てた様子で「今から向かいます!」と、大きな声がする。竹塚はコートを手に部屋を出た。 「…母さん?」  丁度受話器を戻している処で、眼には涙と安堵の表情が浮かんでいた。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!