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その夜、檻の中で休むクマに、風に乗って森の木霊がこう語りかけた。
長老の樹の木霊が、クマを迎えるために闇にまぎれてそっとやってきたのだ。
「おまえが戻れて嬉しい。サーカス団長の心臓を忘れず持ち帰るのだぞ」
クマは驚いて叫んだ。
「なぜ!?」
長老の木霊は優しく言った。
「そんなことも忘れたのか。
穢れた人の手から、おまえは物を食べた。
その代償に――その生き様から縁を切る証に、森に彼の心臓を捧げるのだ」
「できないよ!」
クマは、長年世話になった優しいサーカス団長の顔を想って泣き叫んだ。
木霊は、拒み続けるクマを不思議そうに眺めていたが、やがて、
「では誰でもよいから、人間の心臓をひとつ持ち帰りなさい」
と言い置いて、夜の明けぬうちにと、急いで森へ帰っていった。
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