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クマの檻の前で、男は言った。
「もう思い残すことはない。俺の心臓を持ち帰れ。これで俺は、おまえの母さんに償いができる。それはずっと俺の望みだった」
「嫌だ!」クマは叫んだ。
だがその時、木霊が現れてクマを捉えた。
クマは一瞬のうち、木霊の記憶が伝えてきた、嵐のような憎しみと怒りに焼かれ、我を失った。
その感覚は懐かしかった。
彼は今、森を追われたクマだった。
次に気付いた時、クマはその口に男の心臓を咥えていた。
走れ、と木霊の声がした。
外は嵐になった。
クマは後悔に打ちのめされながらも、必死で走る自分を止められなかった。
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