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そのとき、サーカス団長が警察署長とともにクマを追ってきた。
人を殺すクマを殺すためだ。
だが、クマを愛情深く育ててきた団長は、どうしても信じられないという顔で、クマに訊いた。
「本当におまえが? どうして?」
クマも団長への申し訳なさでいっぱいになって、男がやってきてからの一部始終を話した。
団長は、クマの話に涙をこぼし、
「私の仕事は罪深いことだったのか」
と呟いた。
「そうじゃない」
警察署長が言った。
「昔、貧乏で辛かった私は、サーカスで笑うと、明日も頑張ろうと思えたんだ。皆そうだった。それが今日の豊かさを生んだのだ」
そのときちょうど、知らせを聞いた銀行頭取と校長もやってきた。
二人は署長の話を聞いていて、深くうなずき、サーカス団長の肩に手を添えた。
団長は涙を拭った。
「ありがとう、皆さん。でも私は、動物をひどい目にあわせていたことに気付かなかった」
いいえ、とクマが言った。
「僕、団長さんに感謝しています」
だが、団長は悲しげに首を横に振る。
校長も神妙な顔で言った。
「我々は確かに反省せねばならない」
「それはわかる。しかし」
頭取は怒ったように言った。
「しかし私は言いたいのだ。
それでもあの頃、我々にサーカスも工場もすべてが必要だったと。
たとえ罪深くとも許されなくとも、辛さの中で我々が人間らしく生き延びるために」
人間たちはうなずき、また頭(かぶり)を振り、最後に森に詫びて泣いた。
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