サーカスが嫌いな男

8/9
前へ
/13ページ
次へ
 そのとき、サーカス団長が警察署長とともにクマを追ってきた。  人を殺すクマを殺すためだ。  だが、クマを愛情深く育ててきた団長は、どうしても信じられないという顔で、クマに訊いた。 「本当におまえが? どうして?」  クマも団長への申し訳なさでいっぱいになって、男がやってきてからの一部始終を話した。  団長は、クマの話に涙をこぼし、 「私の仕事は罪深いことだったのか」  と呟いた。 「そうじゃない」  警察署長が言った。 「昔、貧乏で辛かった私は、サーカスで笑うと、明日も頑張ろうと思えたんだ。皆そうだった。それが今日の豊かさを生んだのだ」  そのときちょうど、知らせを聞いた銀行頭取と校長もやってきた。  二人は署長の話を聞いていて、深くうなずき、サーカス団長の肩に手を添えた。  団長は涙を拭った。 「ありがとう、皆さん。でも私は、動物をひどい目にあわせていたことに気付かなかった」  いいえ、とクマが言った。 「僕、団長さんに感謝しています」  だが、団長は悲しげに首を横に振る。  校長も神妙な顔で言った。 「我々は確かに反省せねばならない」 「それはわかる。しかし」  頭取は怒ったように言った。 「しかし私は言いたいのだ。  それでもあの頃、我々にサーカスも工場もすべてが必要だったと。  たとえ罪深くとも許されなくとも、辛さの中で我々が人間らしく生き延びるために」  人間たちはうなずき、また頭(かぶり)を振り、最後に森に詫びて泣いた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加