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長老の樹の木霊は、その嘆きをじっと聞いていた。
すると、その彼の梢から、一滴のしずくが、銀の真珠のように、ぽたりと落ちた。
それを見たのは、賢いフクロウだけだ。
そのしずくは、森の土に沁みわたり、やがて、男の血や、クマや人間の涙とともに、森から湧き出す川の、何万年も続く流れのひとしずくになるだろう。
そしてまた、そのようにして歴史も続くだろう。
「私は紙芝居の仕事を始めよう」と団長が言った。
「我々の時代のよいことも悪いことも、全部、本当のことを子どもたちに伝えたい。そして皆で、これからの事を考えてゆけるようにしたいのです」と。
ああ、人はそうして天地をつないでゆくのだな、と木霊は思った。
そしてあの、森に生まれながら、人のように愚かしく浅ましい、人を愛してしまったクマも。
若い木霊たちが風をそよがすと、雲が晴れて、ふたたび森に光が射してきた。
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