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サーカスが嫌いな男
「サーカスが来るんだって」
そう言って、息子が目を輝かしたとき、男は不意に暗い目をした。
サーカスなんて何年ぶりだろう。
昔、サーカス興行は庶民の楽しみの花形だった。だが今、楽しそうに話し続ける息子は、サーカスがどんなものかも知らない。
それはいいことだと男は思っていた。
サーカスなんて野蛮な娯楽はなくなってしまえばいいのだと。
しかし、頬を紅潮させて息子が語るには、今、その話題を知らないこの街の人間は、男だけだということになる。街中がすっかり、その話題で持ちきりだというのだ。
男は少し苦い思いがした。
往時を思えば、ここも再び寂れた田舎町になったとはいえ、娯楽はほかにいくらでもありそうなものなのに。
「絶対に連れて行ってくれるよね」
強引に約束させる息子に、男は苦笑いしながら、逆らうことができない。早くに妻を亡くしてから、息子を少し甘やかしすぎているかもしれない。そう彼は自嘲した。
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